東京地方裁判所 昭和60年(ワ)7774号 判決
一 本件特許権の帰属に関する請求の原因1の事実及び本件明細書の特許請求の範囲の記載に関する同2の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 右争いがない特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第二号証の一(本件公報)によれば、本件発明の構成要件は請求の原因3のとおりであることが認められる。
三 請求の原因4の事実のうち、被告が、被告装置を昭和六一年二月まで使用していた点については当事者間に争いがない。
四 そこで、被告装置が本件発明の技術的範囲に属するか否かを判断する。
1 まず、被告装置が本件発明の構成要件(一)ないし(三)、(五)及び(六)をいずれも充足することは、特に説明を加えるまでもなく明らかであり、被告もこれを争わない。
2 次に、被告装置が本件発明の構成要件(四)を充足するか否かにつき検討する。
(一) 構成要件(四)は、切断部において切断されたシートが被覆された容器を、次の工程であるプレス部に移送するにあたり、シートが容器に被覆された状態を維持させるための手段として、「圧気吹付等の圧着手段」を採用したものであることは、その文言に照らして明らかである。
そして、右にいう「圧気吹付」については、その後に「等」とあることから、文理上は必ずしもこれに限られるものではなく、圧着手段のひとつの実施態様を示したものと解するほかはない。 また、「圧着手段」の「圧着」とは、一般に、「何らかの外力を加えて押しつけること」という意味に解される。
ところで、構成要件(四)は、前記のように、切断されたシートを単に容器上に被覆させるためだけの手段を明らかにしたものではなく、シートの被覆された容器をプレス部に移送するに際し、その被覆された状態を維持させるための手段を明らかにしたものであるが、次の工程への移送という動きが加わることによつて、自重のわずかしかないシートと容器との間にずれが生じるなど、被覆状態が維持されなくなる可能性があることは、容易に想定されるところであるから、かかる事態を防止することが必要になる。右のような観点からすれば、構成要件(四)は、容器がシートで被覆された状態を維持するために、シートに何らかの外的な力を加えることとし、これを「圧着手段」と表現したものと考えられる。
次に、前掲甲第二号証の一によれば、本件明細書の発明の詳細な説明欄には、構成要件(四)の構成に関し、「打ち抜き部11は詳細には図示されていないが、フイルムを円形に切り取るための上下動する打ち抜き刃と切り取られたフイルム片を容器a上に乗せるための空気吹付け、その他によるフイルム片移動部とを有し、例えば、圧気を上部から吹きつけて、フイルム片を容器aの内側壁の形状に応じた略皿形にして容器内に保持させる。」との記載(本件公報三欄二三行目から二九行目まで)があること、しかし、フイルム片の容器への保持の態様が、フイルム片に何ら外力を加えることなく、単にこれを容器上に載置するものであれば足りることを明示し又は示唆するような記載はないことが認められる。
また、成立に争いのない乙第一二号証の三によれば、特許異議の申立てに対する原告の答弁書には、「本願は、ポツプコーン容器にセロハンの蓋を覆せ、それを圧気により内側に凹した状態に維持して送り、」との記載があることが認められる。
以上に説示した点を合わせ考えると、構成要件(四)にいう「圧気吹付等の圧着手段」とは、必ずしも圧気吹付けの方法に限定されるものではないが、容器に被覆されたシートに対し、少なくとも何らかの方法で外的な力を加え、これによつて、次の工程たるプレス部へ移送するにあたつても、容器がシートで被覆された状態を維持しうるような構成であることが必要であると認めるのが相当である。
(二) 他方、被告装置の構造を示すものとして前記争いのない別紙物件目録の記載によれば、被告装置においては、コンベヤの容器の載置台の四隅部の容器周囲位置に四本のガイドピンが植設され、ここで切断されて下降してきたシートが位置規制され、容器上に載置された状態で次の工程たるプレス部に移送される、という構成であつて、シートには何らの外的な力が加えられることなく、容器への被覆状態が保持されることが認められる。
(三) そうすると、被告装置は構成要件(四)を充足しないものといわなければならない。
ところで、原告は、右のようなガイドピンによる位置規制は、昔からの周知慣用手段であるから、たとえ構造が相違するとしても、その作用効果を同じくする以上、単なる設計変更にすぎない旨主張する。しかしながら、本件明細書には、本件発明におけるシートの容器への保持手段が、シートに何ら外力を加えないものであつてもよいことを示唆するような記載がないことは、先に認定したとおりであり、本件発明における圧着手段と被告装置におけるガイドピンによる位置規制の構造とでは、技術思想を異にするといわざるをえないから、右の相違をいわゆる設計変更をもつて論ずる余地はないというべきである。原告の主張は採用することができない。
(四) 以上のとおり、被告装置は、本件発明の構成要件(四)を充足しないから、その技術的範囲に属しない。
五 よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。
「底部にポツプコーンの材料を収納した皿状の箔製容器を間けつ的に移送するためのチエインコンベヤよりなる搬送部と、前記コンベヤに沿つてフイルムを円形に切断して容器上に被覆するためのフイルム切断部およびこれに続いて容器に針金の枠を供給し容器を形成するためのプレス部とを設け、前記切断部においてフイルムから切断されたシートを圧気吹付等の圧着手段により容器上に被覆させた状態を維持させてプレス部に移送し、前記プレス部において、持手のついた環状の針金の枠を供給するとともに、シートを被覆した容器の縁部を枠に巻きつけて一体に成形することを特徴とするポツプコーン容器の包装成型機。」